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キッチンに向かいかけたラヴェンダーをウィルセイは慌てて呼び止めた。
「ラヴェンダー!」
わずかな時間でもいい。どうしても彼女に会いたかったのは。
「本当はブラッドリーと予定が合わなかったんじゃない。あえて独りで来たんだ」
どうしても伝えたいことがあったからだ。"あの日"からずっと胸に秘めてきた想いを。
「ラヴェンダー、貴女が好きだ。・・・これからは結婚を前提に付き合っていきたい」
ラヴェンダーは言葉を失った。身分差を越えた恋など物語の中でしか成立しないと何処かで諦めていたのに。いざ夢が現実のものになると思考が追い付かないらしい。
しばらくしてようやく出てきたのは気のきかない一言だった。
「でも・・・ウィルセイ様と私では身分が違いすぎます…」
「身分など関係ないよ。私が貴女と一緒にいたいんだ」
ウィルセイはきっぱり言い切った。
だが内心はラヴェンダーの反応が返ってこないことに動揺していた。
(言葉を間違えたか…!?彼女の本心も知らないのに結婚を前提にとか重すぎたのか!?だいたい彼女に他に好きな男性がいるかも知れないのに話が飛躍しすぎだろ!しまった・・・やってしまったかも知れない・・・)
色々思考を巡らせた上で、彼は一言付け加えた。
「もちろん、他に想う相手がいるなら断ってくれて構わない」
(夢じゃ…ない)
ウィルセイの真摯な眼差しにラヴェンダーがようやく現実を受け止めた時、彼女の瞳から一筋涙がこぼれ落ちた。
ずっと諦めなければいけないと、自分に言い聞かせてきた。押し殺し続けた想いが涙と共に溢れだす。
「・・・ウィルセイ様…私もずっと・・・」
言葉が上手く出てこない。
「ずっと・・・お慕いしてました。でもご迷惑になってしまうと思って…だから・・・」
ウィルセイはその言葉で一気に緊張から解放された。ラヴェンダーと自分の想いが一緒であったことが嬉しかった。
そして。
「ありがとう」
その涙を止めたくて、初めて彼女を抱き締めた。
「迷惑なんかじゃない。周りの人間に何を言われても私は構わない。・・・貴女と一緒にいられるなら」
柔らかな頬も、艶やかな黒髪も、彼女の全てがいとおしい。
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