23.追憶

2/5
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/196ページ
あの頃は、この街も、彼女達も。 全てこの手で護れると思っていた。 ―あの日、帰るべき場所を失うまでは。 ラヴェンダーと共にウィルセイが闘技場へ戻った時、控え室は気まずい雰囲気に支配されていた。 共同宿舎に戻ってもぴりぴりとした緊張感が消えることはなく。 普段は賑やかな食堂内も珍しくしん、としている。 「ウィル・・・お前本当は戦士じゃなかったんだな」 不気味なほどに穏やかなジョーの声。 真実を知った仲間達を前にして、ウィルセイは神妙な表情になった。 「ああ。私は近衛隊長として、リチャード様に忠誠を誓った身だ。みんなとの間に不要な壁を作りたくなくて、ずっと黙っていたことを、許して欲しい」 「別に僕たち怒ってなんていませんよ。だって、ウィルさんは大切な人たちを護るために行くんでしょう?」 ポールがさりげなくフォローを入れる。 「俺は可能なら、お前と一緒に護民軍へ行きたいくらいだ」 ジョーの言葉に同調して、血気盛んな若い戦士達が頷いた。 「なあ、エドさん」 エドはあえてジョーと目を合わせようとしなかった。 (ジョー…) ウィルセイは言葉をかけることが出来なかった。 今、普段の陽気な彼の姿はどこにもない。 "ここにいる戦士達のほとんどが、10年前の戦で親兄弟を亡くしているんです" 彼が抱える感情は、自分には到底推し測れない。そんな簡単なものではないだろう。 「あの時、俺は何もできない無力なガキだった。でも今は違う。この手で大事なもんを護れるくらい強くなった。あんたのおかげで」 汚ない身なりで、行くあてもない自分に手をさしのべてくれた。 "俺と一緒に来ないか?" 他人を敬う心、努力すれば必ず自分に返ってくること。 格闘術を通して、数えきれないほど大切な事を教えてくれた。 だからこそ― 「なんで王様の願いに応えてやらなかったんだ!?」 ジョーはエドの胸ぐらを掴み、詰め寄った。 厳しく、優しく、誇り高き戦士であるはずの彼が、助力を求める人間に背を向けたことが、どうしても納得いかなかった。 「俺たちみたいな思いをする子供を増やさないために、自分に出来る事をしたいって、あんたは思わないのか!?」
/196ページ

最初のコメントを投稿しよう!