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あの頃は、この街も、彼女達も。
全てこの手で護れると思っていた。
―あの日、帰るべき場所を失うまでは。
ラヴェンダーと共にウィルセイが闘技場へ戻った時、控え室は気まずい雰囲気に支配されていた。
共同宿舎に戻ってもぴりぴりとした緊張感が消えることはなく。
普段は賑やかな食堂内も珍しくしん、としている。
「ウィル・・・お前本当は戦士じゃなかったんだな」
不気味なほどに穏やかなジョーの声。
真実を知った仲間達を前にして、ウィルセイは神妙な表情になった。
「ああ。私は近衛隊長として、リチャード様に忠誠を誓った身だ。みんなとの間に不要な壁を作りたくなくて、ずっと黙っていたことを、許して欲しい」
「別に僕たち怒ってなんていませんよ。だって、ウィルさんは大切な人たちを護るために行くんでしょう?」
ポールがさりげなくフォローを入れる。
「俺は可能なら、お前と一緒に護民軍へ行きたいくらいだ」
ジョーの言葉に同調して、血気盛んな若い戦士達が頷いた。
「なあ、エドさん」
エドはあえてジョーと目を合わせようとしなかった。
(ジョー…)
ウィルセイは言葉をかけることが出来なかった。
今、普段の陽気な彼の姿はどこにもない。
"ここにいる戦士達のほとんどが、10年前の戦で親兄弟を亡くしているんです"
彼が抱える感情は、自分には到底推し測れない。そんな簡単なものではないだろう。
「あの時、俺は何もできない無力なガキだった。でも今は違う。この手で大事なもんを護れるくらい強くなった。あんたのおかげで」
汚ない身なりで、行くあてもない自分に手をさしのべてくれた。
"俺と一緒に来ないか?"
他人を敬う心、努力すれば必ず自分に返ってくること。
格闘術を通して、数えきれないほど大切な事を教えてくれた。
だからこそ―
「なんで王様の願いに応えてやらなかったんだ!?」
ジョーはエドの胸ぐらを掴み、詰め寄った。
厳しく、優しく、誇り高き戦士であるはずの彼が、助力を求める人間に背を向けたことが、どうしても納得いかなかった。
「俺たちみたいな思いをする子供を増やさないために、自分に出来る事をしたいって、あんたは思わないのか!?」
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