23.追憶

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(エドさん…) ウィルセイは目を伏せた。 あの夜のエドの哀しげな眼差しの意味がようやくわかった。 触れてしまったのは、あまりに深すぎる心の傷。 "安易に他人を傷つければ、必ず後悔する。俺はそうだった" 自分の世界を壊した者達を憎んで。 ひたすらに戦った。 復讐心に突き動かされるまま敵を倒し続けても、虚しさは消えず、むしろ深まる一方で― 戦が終わった後、逃げるようにして護民軍を辞めた。 「てめえの妻も生まれてこようとしてた命も護れなかった俺に、一体何が出来る!」 この10年、何よりも憎み続けてきたのは、己の力量を過信した自分自身。 「自分がこの街を護るなんて、ただの驕りだ。人ひとりで出来ることなんて、所詮限られて・・・」 その時だった。 きつく握りこんだエドの指を、ポールがそっと開かせた。 「ひとりじゃないです」 エドが視線を上げると、そこには仲間達の笑顔があった。 リズが続ける。 「そうよ。あたし達がいるじゃない」 血は繋がっていなくてもまるで家族のように。 同じ場所で時を過ごしてきた。 「俺たちのためとか、そんなお題目はいらねえ。あんた自身がどうしたいのかを言ってみろよ!!」 仲間達の言葉に、頑なになっていたエドの心が揺さぶられた。 自分自身を憎みながら。 それでも皆と生きるために選んだのは戦士(ファイター)の道。 戦うことを捨てきれなかったのは、彼女が素敵だと言ってくれたから― (…護りたい) 彼女が生きたこの街を。 これからも皆が生きていくこの街を。 王の言葉を聞いたとき、心のどこかに芽吹いた想いが、大きくなっていく。 「この街を、護りたい。そのためなら戦える」 自分に新しい世界を与えてくれた仲間達が、もう一度立ち向かう勇気をくれたから。
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