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「来ちゃったのはいいけど…踊れる自信がないわ」
ラヴェンダーは戸惑いの笑みを浮かべる。
王都で行われる祭りの踊りに似ているが、見よう見まねであの複雑なステップを踏む自信はない。
だが、そんなラヴェンダーの不安を吹き飛ばすように、ウィルセイは彼女の耳許で囁いた。
「大丈夫、何も考えず楽しめばいい」
ラヴェンダーの腰を左腕で引き寄せ、右手を組んだ状態で、ウィルセイは更にテンポを上げたメロディーに乗り、踊りだした。
ラヴェンダーは最初のうちウィルセイについていくので精一杯だったが、次第に身体が曲のリズムに慣れてくる。
手拍子が鳴り響く。
ウィルセイは一旦彼女の手を離し、先ほどよりもかなり速度を上げて、複雑なステップを踊りきる。
ラヴェンダーは茶目っ気のある笑顔でそれに応え、メロディーに合わせて即興のステップを踏んでみせた。
「よっ、お二人さん!!」
「イェーッ!!」
いい案配に酔っぱらった者達から大きな歓声が上がる。
肩を組み杯を酌み交わす者。
踊る者。
その様子を眺める者。
この場に集った全員が、幸せそうな表情で笑っている。
そして皆の中心で、ウィルセイとラヴェンダーは笑い声を上げ、二人手をつなぎ踊り続けた―
夜もふけて、ウィルセイとラヴェンダー、レティシアは先に退出した。
周囲が、へべれけに酔っぱらいながら、更に飲み続ける者と、帰り支度をし始める者に分かれる中で、リチャード、ボース、エド、ガウェインの4人は同じテーブルを囲んでいた。
「リチャード様、明日の打ち合わせは午後からでよろしかったですか?」
「ああ、よろしく頼む」
「・・・ちなみに、隊長は?」
「明日、ウィルセイには休みを与えた。リリーの奪還に向けて策を練らなければいけないことはわかっているが…せめて一日でも二人きりの時間を持たせてやりたい」
―穏やかな時間を、せめてもう少しだけ。
そう願いながら、4人は静かに酒を味わった。
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