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その日のルゴス城は、皆が朝から忙しなく動きまわっていた。
「門を開けろ!!」
ガウェインの声が響き。
重たい音を立てて開いた門を、複数の馬が一気に通り抜けていく。
一団の中央にいる馬から降りた人物に、出迎えに出ていたリチャードが声をかけた。
「リリー」
リリーは、兄の腕の中に一目散に飛び込む。
「心配かけてごめんね、兄上」
再会を喜びあう兄妹の姿を、ボースは柔らかな笑顔で見つめていた。
昨日ジョン王の進軍状況を確認するために出した斥候から、リリー釈放の一報が入り、リチャードは彼女を奪還するため、今朝一番に小隊を出すことにした。
そして志願して隊の指揮をとったのがボースだったのだ。
帰還後すぐに、リリー姫の報告を受けるため主要なメンバーが広間に集められる。
ウィルセイ、ボース、エド、ガウェインに加え、幽閉先から密かに解放されたロマンスグレーの紳士が新たに打ち合わせの場に加わっている。
リリーはジョン王陣営の現在位置、兵の数、今後の行動予測、自分が戻る際追跡されたことも含め知り得た全てを報告した。
「では、宰相の策でお前は脱出出来たのか」
「はい。彼は叔父上と違う思惑を持って動いています。その証拠に、これを兄上に渡すようにと」
リリーは、ブラッドリーから預かってきた紙切れをリチャードに手渡す。
中身を見たリチャードは驚いた。
「これは・・・薬の組成表ではないか」
「私はさっぱりわからないけど、おそらく例の兵士達に投与されたものよ」
「タンザナイト卿」
リチャードに声をかけられたのは、ディアマンテ王国の中でも歴史の古い有力貴族、タンザナイト家の当主。
ウィルセイと共にコンキスタに送られた忠臣で、元は行政府で医療部門を統括していた。
医術、薬学への造詣も深く、未知の薬物への対抗手段を講じるにはうってつけの人物である。
「この組成表を元に解毒薬を作れるか」
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