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一方、隣同士に並んだウィルセイとエドも言葉を交わしていた。
「ウィル、もう迷っていないようだな」
"約束したんです。彼と真正面から向き合うと"
あの時、そう言いながらもまだ彼には迷いが見えた。
だが、今、戦場で親友と相対する時を目の前にして、ウィルの瞳は澄みきっている。
「はい。ごちゃごちゃ考えるのはやめました。今の自分に出来ることは、彼と真正面からぶつかることだけですから」
その答えを聞いて、エドは満足げに笑う。
「奥さん泣かすんじゃねえぞ」
ウィルセイは落ち着いた笑みを浮かべていた。
「必ず生きて戻りましょう」
「言ってくれるねえ…上等だ!!」
リチャードは中庭で整列している兵士達の前に立った。
戦に臨むためにやれることは全てやった。
タンザナイト卿達は今も必死に解毒薬を作ってくれている。
「皆、共に戦ってくれることに感謝する!」
あとは皆の士気を上げるだけだ。
「私から伝えることはただ一つ。皆で生きてここへ戻ってこよう!!そのために精一杯あがくことを忘れるな!!」
リチャードの言葉を聞いた兵士達が、誰からともなく口ずさみ始めた。
"戴(いただ)くは気高き輝石(きせき)"
彼らが歌う『我が祖国』はやがて大合唱へと変わる。
空気を揺らし。
城内まで響き渡るほどに。
"ディアマンテ
輝ける我が祖国よ"
―大切な者を護るために。
"我は誓う
不屈の忠誠"
―友との決着をつけるために。
"大地に咲く白き花
ディアマンテ
美しい我が祖国よ"
―過去の自分と訣別するために。
"我は願う
永久(とわ)の繁栄"
―そして、未来を切り開くために。
"愛する我が祖国
ディアマンテ
ディアマンテよ永遠なれ"
それぞれが、それぞれの想いを抱いて。
一斉に鬨の声を上げる。
ディアマンテ王国の行く末を決めた戦として、後世まで語り継がれることになる「リヒテン平野の戦い」の始まりだった。
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