29.開戦

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一方、隣同士に並んだウィルセイとエドも言葉を交わしていた。 「ウィル、もう迷っていないようだな」 "約束したんです。彼と真正面から向き合うと" あの時、そう言いながらもまだ彼には迷いが見えた。 だが、今、戦場で親友と相対する時を目の前にして、ウィルの瞳は澄みきっている。 「はい。ごちゃごちゃ考えるのはやめました。今の自分に出来ることは、彼と真正面からぶつかることだけですから」 その答えを聞いて、エドは満足げに笑う。 「奥さん泣かすんじゃねえぞ」 ウィルセイは落ち着いた笑みを浮かべていた。 「必ず生きて戻りましょう」 「言ってくれるねえ…上等だ!!」 リチャードは中庭で整列している兵士達の前に立った。 戦に臨むためにやれることは全てやった。 タンザナイト卿達は今も必死に解毒薬を作ってくれている。 「皆、共に戦ってくれることに感謝する!」 あとは皆の士気を上げるだけだ。 「私から伝えることはただ一つ。皆で生きてここへ戻ってこよう!!そのために精一杯あがくことを忘れるな!!」 リチャードの言葉を聞いた兵士達が、誰からともなく口ずさみ始めた。 "戴(いただ)くは気高き輝石(きせき)" 彼らが歌う『我が祖国』はやがて大合唱へと変わる。 空気を揺らし。 城内まで響き渡るほどに。 "ディアマンテ 輝ける我が祖国よ" ―大切な者を護るために。 "我は誓う 不屈の忠誠" ―友との決着をつけるために。 "大地に咲く白き花 ディアマンテ 美しい我が祖国よ" ―過去の自分と訣別するために。 "我は願う 永久(とわ)の繁栄" ―そして、未来を切り開くために。 "愛する我が祖国 ディアマンテ ディアマンテよ永遠なれ" それぞれが、それぞれの想いを抱いて。 一斉に鬨の声を上げる。 ディアマンテ王国の行く末を決めた戦として、後世まで語り継がれることになる「リヒテン平野の戦い」の始まりだった。
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