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「そうか、今だと名門貴族当主の愛人止まりか。なら同じような身分の俺が交際を申し込んだ方がラヴェンダーは幸せなのかもな」
「なっ…!?」
血相を変えたウィルセイを見てブラッドリーは悪戯っぽく笑い、ウィルセイの肩をぽんと叩いた。
「冗談だ。そんな表情が出来るくらいお前はラヴェンダーひとすじなんだろ。なら妻として迎えられるよう手を尽くせよ」
親友の励ましの言葉に、ウィルセイは微笑む。だがこの時ブラッドリーが実は心中穏やかでなかったことに、彼はまだ気付いていなかった。
一方、王宮の調理場では昼に向けて下働きの者達が忙しなく動いていた。
その中に長い黒髪を結い上げた美しい女性がいた。慣れた手つきで野菜の下ごしらえを終えた彼女に料理長が指示を飛ばす。
「ラヴェンダー、器の準備を頼むよ」
「はい!」
彼女はもともと中流ではあるが貴族の令嬢だった。しかし5年前流行り病で父母が亡くなり彼女を取り囲む状況は一変した。
貴族は男子しか家名を継げないため、ラヴェンダーは住み慣れた屋敷と家名を親類筋に譲り渡さざるを得なかった。
それでも王都の片隅に部屋を借り、王宮の調理場で下働きの職に就けただけ自分は幸運だったと彼女は感謝している。
全ては幼なじみの縁で便宜を図ってくれたウィルセイとブラッドリーのお陰だった。
「ねえ、私こないだウィルセイ様とブラッドリー様をお見かけしたの!!」
「えー、うらやましい!!どうだった?素敵だった!?」
「とっても!お二人とも背が高くて格好良かったわ」
下働きの少女達が雑談に興じている姿はなぜだか微笑ましい。夢見がちな年頃の少女にとってあの二人はまるで王子様のような存在なのだろう。
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