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「謝る必要はない」
今度は心からそう言える。
自分はずっとブラッドリーを自覚の無いまま傷つけていた。
"お前はラヴェンダーひとすじなんだろう?"
一体どんな気持ちで自分を励ましてくれたのだろうか。
ラヴェンダーが側室として王宮に上がってから、自分はずっと苦しかった。
手を伸ばせば届きそうな場所にいるのに、決して想いを告げることは許されない。
ブラッドリーが抱え続けていたであろうその辛さを、今の自分なら少しは理解できる。
「私にも謝らなければいけない事がある。お前に黙って彼女と一線を越えた。これはその代償だ」
彼が代償と呼んだ鉄の手枷を見て、ブラッドリーの表情が歪んだ。
「ラヴェンダーのことは確かに好きだったよ。でも、それ以上に俺は…」
"ブラッドリー、早く来いよ!!"
幼い日から、ずっとずっと自分の目の前に彼の背中があった。
裏表がなくて、真っ直ぐで。
自分にないものを全て持っている彼は、ずっと自分の憧れだった。
「俺はただ、お前と対等な立場になりたくて、その一心でここまで来た。決してお前のこんな姿を見たかった訳じゃない」
自分の本当の願いは、ただウィルセイと対等な立場で向き合うことだった。
だが、彼をこの状況まで追いこんだ原因は、自分の愚かな選択だ。
今さら償うことは出来ない。ならば―
「だが、俺はお前を糾弾する立場を選ぶ。今度の裁判から、俺たちは敵同士だ」
自分自身の願いを叶えるために、彼と向き合う道を選ぶ。
それがブラッドリーのたどり着いた結論だった。
「友達でいられるのは、今日までということか」
ウィルセイは理解した。
ブラッドリーが自分と真っ向から対立する決断を下したのだと。
ならば自分もただ真っ直ぐに、彼と向き合いたいと思った。
「ウィルセイ、嘘っぱちの裁判で潰されるなんて許さないぞ。例えどんなに辛い結末になったとしても、絶対に這い上がってこい。俺はその日をずっと待ってるからな」
親友として最後の言葉を残し、ブラッドリーは去っていった。
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