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ブラッドリーの言葉通り、ジョン卿を中心として行われた裁判で、大半の者は完膚なきまでに叩き潰された。
さも本当のように揃えられた証拠の数々。
もちろん否定する者もいたが、否定すれば夜必ず執拗な尋問が待ち受けている。
一人また一人と抵抗する気力を削がれていく中で、ウィルセイはただじっと耐え続けていた。
ブラッドリーが残した言葉を、心の支えにして。
その晩、ウィルセイは牢に入ってからも続けている日課に取り組んでいた。
手枷をはめたまま、窓の鉄格子を両手でつかみぶら下がる。
その体勢から両足のつま先を揃え、直角になるまでゆっくり引き上げていく。
日当たりの悪い場所とはいえ、夏の夜はまだ蒸し暑い。
1回2回・・と回数を繰り返すうちに大量の汗が滴り落ちた。
(少しなまったな)
近衛隊時代は様々な器具を使って肉体の鍛練が出来た。
例え簡単な方法でしか鍛練出来なくても、今は法廷と牢を行ったり来たりするだけ。
継続して取り組まなければ体力は落ちる一方だろう。気力を保つためにもせめて体力は維持しておきたかった。
自由の効かない両手を使い汗を拭きながら彼は思う。
こうでもしないと毎夜を乗り切れない自分は、本当の意味で独りになったことがなかったと。
"ウィルセイ"
親友。
"ウィルセイ様"
愛しい女性。
"旦那様"
使用人たち。
"隊長!!"
大切な仲間たち。
頭を空っぽにしないと、懐かしさで心が壊れてしまいそうだ。
普段聞こえてくるはずのない靴音が聞こえてきた時は、一瞬自分の正気を疑った。
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