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迫力のある低い声が響く。
振り向いたのは、リチャード王の叔父であるジョン、彼だけは崩御した先王の時代から行政府と近衛隊の取りまとめ役である護国卿の地位にいる。
国内外での評価は、一言で言えば切れ者。その眼光鋭い容貌と黒色の礼服をいつも身にまとっていることから"ディアマンテ王国の黒き鷹"の異名を持つ。
「何か内密のご用件でしょうか?」
その返答にジョン卿は口許を緩める。
「全く・・・場の雰囲気をよく読むな。君は」
だが次の瞬間笑みは消えた。
「実は今度リチャードの側室候補を探そうと思っている」
「お世継ぎが欲しい…ということですか。提案したらリリー様が烈火のごとく怒りそうですね」
「あの子は家族を大切にしているからな。だが国の行く末がかかっている。王族たるもの私情は切り捨てなければならない」
ジョン卿は腕を組んだ。
「問題は人選だ。レティシア様の母国との関係や貴族間のパワーバランスも考慮が必要だ」
ブラッドリーが先を続ける。
「国内の女性がよろしいかと…ですが身分があって野心を持たないとなると、確かに難しいですね」
「そういうことだ。誰か心当たりはあるか?」
ブラッドリーの脳裏に浮かんだのはただ一人だった。年は23、本来であれば社交界の華になっていたであろう美貌。貴族の身分を奪われてなお懸命に生きる慎ましやかな女性。
だが彼は気づいていた。彼女が想いを寄せる相手に。地位と恵まれた容姿と、周囲の人間を惹き付ける魅力を併せ持つ親友。
二人に幸せになって欲しいはずだった。建前で諦められる感情なら―
ブラッドリーは首を横に振った。
「すぐには思い浮かびません」
「そうだろうな。ひと月後もう一度話し合いたい。何名か候補の女性を探してくれ」
「御意」
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