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あの頃、沈む夕陽を眺めながら、二人は何を思っていたのだろう―?
初秋、リチャード王の任命責任を問う弾劾裁判が始まった。
もちろん、この春即位したばかりの新王が訴えられるなど前代未聞の出来事である。
民の預かり知らぬところで、ジョン卿による王位簒奪(さんだつ)のシナリオは少しずつ動き始めていた。
ブラッドリー・アメジストになってから数週間。
彼はジョン卿の執務室に、リアムと共に呼び出されていた。
理由はただひとつ、今後どうリチャード王から王位を奪うかの相談である。
ウィルセイと訣別した後、ブラッドリーは自然とジョン卿の許についた。
状況に流されたといえばそれまでだが、ジョン卿の言葉に共感を覚えたのもまた事実だった。
ジョン卿に意見を求められ、ブラッドリーは私見を述べた。
「恐れながら、効率的に王位を奪うなら、任命責任を追及するだけでは手ぬるいと思います」
「ではどうすればいい?」
「定石ですが、裁判と並行して王の方針に不満をもつ者達をこちらへとりこみます。彼ら辺りは手っ取り早く、金をつかませれば簡単に手のひらを返すでしょう」
ブラッドリーが挙げた貴族達の名前を聞き、ジョン卿は満足げに微笑んだ。
「確かに簡単に宗旨変えしそうな連中だな。早速手を回そう」
ブラッドリーはおもむろに切り出した。
「失礼ですが、そろそろ通常業務に戻らせて下さい。宰相補佐官と揃って長い時間不在では、いらぬ誤解を招きそうなので」
「わかった。行政府に戻ってくれ」
「ありがとうございます。リアム、話が終わり次第すぐ戻るように」
「かしこまりました」
ブラッドリーが退室した後、リアムはボソッと感想を口にした。
「随分えげつなくなりましたね。宰相は」
ジョン卿は答えた。
「情を捨てて吹っ切れたんじゃないか?せいぜい自由に動いてもらえ。ただし決して"例の情報"は漏らすな」
「利用価値はある、けれど信用するな…とおっしゃりたいのですか」
リアムの言葉に、ジョン卿の眼差しが鋭さを増した。
「そうだ。あれはしたたかな男だ。未だ我々にも真意を見せていないことを忘れるな」
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