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下がる前にブラッドリーはふと疑問に思ったことを口にした。
「あの・・・何故私だけをお呼びになったのですか?近衛隊長にも相談があってしかるべき内容かと思いますが…」
ジョン卿は迷わず言い切った。
「ウィルセイは実直すぎてこの手の相談には向かない、そう判断した。他に何かあるか?」
「いいえ。・・・失礼いたしました」
退室したブラッドリーは、回廊で立ち止まり中庭に目をやった。柔らかな風が木々の葉を揺らし、さらさらとした優しい音が彼の思いを過去へと引き戻す。
ブラッドリーはウィルセイの乳兄弟として共に勉学や武術に励み、貴族と同じ経験を得ることが出来た。
その一方、貴族ではないということで周囲から認められるために苦労もしてきた。
中でも一番嫌だったのはウィルセイと比較されることだ。だからあえて彼と違う道を選び、行政府で身を立てようと決めた。
誰に対しても誠実なウィルセイが好きだ。だが、同時にひどく妬ましい。
努力して地位を手に入れても自分は決して彼のようになれないから。
何故ウィルセイは全てを手に入れられるのか。自分が想いを寄せてきた女性の心までも。
そう考えてしまう自分がひどく醜いと思った。
(あいつの前では良き友でいたくて、自分で背中を押したくせに…)
ブラッドリーは一瞬目を閉じ、そして独り歩き出した。
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