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「ついでに、ここへ飛ばされた理由は、そのペンダントをくれた女、なーんて…」
あえて軽い口調で場を和ませようとしたエドだったが、ウィルセイが無言のままでいるのを見て、すぐに諦めた。
「図星・・・か」
ウィルセイは自嘲気味に呟く。
「簡潔に言うと、高嶺の花に手を出した挙げ句、自ら進んで冤罪被って、唯一無二の親友とも訣別しました。・・・笑ってくれていいですよ」
「別に笑わねえよ。それだけ一生懸命想える女に出逢えた事は、幸せだと思うけどな」
ラピスラズリのペンダントを掌で握りしめ、ウィルセイは微笑んだ。
「経緯はどうあれ、ここへ来られて良かったです。もう一度自分を見つめ直して・・・今より強くなりたい」
「今でも十分強いだろう。なぜそこまで強さを求める?」
エドの問いに対する答えは二つ。
一つはラヴェンダー。いつか再会した時、今度こそ彼女を護れる自分でいるため。
そしてもう一つは・・・
「親しかった友と戦うために」
ブラッドリーとの約束を果たすため。
「約束したんです。彼と真正面から向き合うと。だから再びあいまみえた時には、戦う覚悟を決めなければいけないと・・・」
「お前は戦って傷つけあうほど、そいつが憎いのか」
ウィルセイは言葉に詰まった。
本当は彼と戦う理由が微塵もない自分がいることに気づいたからだ。
子供の頃、二人でよく夕焼け空を見ながら語り合った。
"いつか二人で作ろう。身分も格差もなく共に手を取り合える世界を"
同じ夢を見て。
同じ理想を追っていたはずだった。
(ブラッドリー・・・)
まだ彼を友だと思う自分は甘いのだろうか。
「戦う覚悟とやらはそいつに対する気持ちと、十分向き合ってから決めればいい」
夜の空気は澄みきっていて。
見上げた星空はどこまでも美しい。
ときほぐされたウィルセイの心に、エドの言葉が染み渡っていく。
「安易に他人を傷つければ、必ず後悔する。俺はそうだった。だから同じ間違いを、お前には犯して欲しくないんだ」
遠くを見つめるエドの眼差しは、どこか哀しげで。
彼は過去に一体どんな経験をしたのか。
何を心に抱えているのか。
この時、ウィルセイはどうしても訊くことが出来なかった。
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