18.かの地へ

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木々の葉が色づき始める頃、リチャード王は法廷での争いに敗北し、処分が確定するまでの間、城内で軟禁されることになった。 そして、ジョン卿は行政府に引き続き近衛隊も掌握した。 元来、護国卿は近衛隊隊長が不在の際、一時的に指揮を執る権利を持っている。 ジョン卿はこの権利を拡大解釈し、実質上近衛隊の指揮権をボースから奪ったのだ。 それからすぐのこと。 ジョン卿が近衛隊に編入させた私兵、そしてジョン卿陣営になびいた近衛隊員達と、現状に不満を抱き、ボースの下に集まった近衛隊員達。 近衛隊内は二つの派閥に割れてしまい、不穏な空気が流れていた。 ―その日、ディアマンテ王国は暗雲に覆われていた。 この季節はよく悪天候になる。 激しい雨風が吹きつけ、王宮の窓という窓を揺らす。 夜、リチャード達が軟禁されている部屋に、ジョン卿の命を受けた私兵の魔の手が迫ろうとしていた。 もちろん部屋の前に立つ見張り役も仲間だ。彼らは静かに扉の鍵を開け、室内へと入り、忍び足で寝台へと近づき、上掛けをはがす。 しかし全ての寝台が既にもぬけのからだった。 「しまった!!逃げられたぞ」 リチャード達は城内から外に出るための隠し通路をひた走っていた。 全員動きやすい服に紺色の外套をまとった姿だ。 レティシアとラヴェンダーは最小限の金貨と食料・水が入った袋を分けて持ち、リチャードとリリーは剣と弓を身につけている。 「まだ気づかれてないみたいね」 「ああ、"彼"のお陰で一歩先んじることが出来た」 リチャードとリリーは走りながら言葉を交わす。 軟禁されている間に、見張りに立つ仲間を通じてリリーに連絡を取ってきたその人物は、何回にも分けて逃亡の準備を整えてくれたのだ。 「レティシア、ラヴェンダー、なるべく追手と距離を離したい。このまま走れるか!?」 あまり言葉を発する余裕がない二人は"はい"と短く答えた。 その頃、リチャード達が逃亡したとの知らせを受けたジョン卿は、部下に命令を下していた。 「ブラッドリー!兵を率いて追跡しろ。リアムは伝令役として同行。出来るだけ4人全員の身柄を確保して戻れ!!」
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