一章

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「……仮にこれが現実だと仮定しちゃったりしないでもないですよ? 僕、大人なんで」 「現実にゃ! 今まで何だと思ってたのにゃ!」 「夢だろ常識的に考えて……夢なら痛くないって誰が決めたんだろうね。知ってる? 夢見る人と書いて儚いっていうんだ……」 「錯乱するにゃー! ストップ・ザ・現実逃避!」 「日本語でおkってヤツですかあー? 三歩譲ってこれは現実として、そういう宗教みたいなのはノーサンキューです! 小嶋さんのしつこい勧誘を断るためにも仕事を辞めたのに、どこまで追っかけてくんのさ!?」 「一体、何があったにゃ……」  呆れたような声を上げ(どこから発声しているのかはもう考えるのをやめた……)、こけしがふわふわ飛んで上着の胸ポケットに潜り込む。軽い重量感が、僕の逃げ出したい気持ちを力いっぱいにプッシュしまくった。  僕のハートに今すぐアクセス! 「忠告しておくと、ウチの声はお前以外の誰にも聞こえてないにょー☆ 変人扱いされたくなかったら、落ち着くにょー♪」 「……」  無表情のまま陽気に騒ぐそいつを無言で力なく見下ろし、僕はトボトボと歩き出す。  仕事を辞めた瞬間以上の脱力感が、その足取りを重くしていた。
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