一章

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 世界がやけに大きく見え、思わず「妖風が目にしみる」と呟き、風属性の妖精様に素でキョトンとされてへこんだ。  再び公園に戻り、まだ誰もいないことを確認する。  さすが無職だ、人が働いてる時間帯だろうと何ともないぜ!  公衆便所の前に立って一瞬「ど~ち~ら~に~し~よ~お~か~なっ」と迷ったのだが、取り敢えず男子便所に早足で侵入し、鏡に自分の姿を映し……。 「は、ははははは……本当に変身してやがる……」  もう笑うしかなかった。  鏡の中で、小学生くらいの女の子が「こんな時、どんな顔をすればいいのかわからないの……」という感じに苦々しい笑みを浮かべている。  パッチリとした大きな瞳が印象的な……まあ陳腐な表現だが、いわゆる美少女の部類に属する容貌ではある。  オタクがみんなロリコンだという説は全力で否定するが、五年後の姿にはノーマルな僕でもちょっと期待するかもしれない。  ……ま、期待も何も僕自身なんですけどね、この子。  黒を基調とした昔のアイドルみたいな衣装と、淡い桃色のふわっとしたセミロングヘアーと紫色の瞳がいかにも作り物めいていて、僕は思わず自分でもわかるロリ声で「これ何のコスプレ?」と風属性の妖精様に問いかけた。 「コスプレなどではないわ下衆め!」  と僕のアニメヘアーをぺしっと叩くのが、かつてこけしであったもの――風属性の妖精様コッコクェドゥースイナクシャータリアだ。  彼女は色々とそれっぽい理屈を並べ立ててはいたが、要点をまとめれば「僕が変身している間は彼女も変身する」と一行でおさまるのである。  僕は「何その昔のアニメチックな話!」と何度もツッコミたくなったわけであって、一々そんな糞設定をここに書いても仕方がない。  15cmサイズ童女の背中にトンボのような透き通った翅が生えた、極々ありふれた「妖精さん」の姿で、元こけし、略してもこけしが文字通りの上から目線で喚き立てる。  見た目にかわいいことはかわいいのだが、こいつには本気で大人の礼儀作法を教えてやらなければいけないのかもしれない。
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