一章

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 最後の交通事故では僕の運転していた軽トラが修復不可能なところまで大破した。  交差点で右から突っ込んできた大学生のワゴンに吹き飛ばされ、スローモーションで迫ってくる民家のブロック塀を見詰めながら、「ああ、ヤバイかな」と静かに思ったあの感覚は今でも覚えている。  走馬灯、なんてのは見なかった。  そんなものを見る前に、胸を強打したエアバッグが僕を現実に引き戻したから。  死ぬ時はあんなものか、という感覚が死への恐怖を和らげる分だけ、何が何でも生きようという気持ちは薄れる。  首・腰・右足首の捻挫が完治してなお、次の職を探す気にもなれず、貯金を削り削りぼんやりと時間を浪費する生活が何ヶ月続いたことだろう。  せめて怠惰な生活で増えた体重くらいはどうにかしようとダイエットを始める程度には気力が回復した頃、とうとう僕はあいつに出会ってしまったのだ。  竹取り翁に対するなよ竹、不動明に対する飛鳥了、源しずかに対するドラえもんばりに僕を非日常に巻き込んでいるあいつに。 「おやおや、そこにょしけた顔したちょっぴり男前にゃアナタ。正義の味方に興味はないですかにょ」  こいつ頭おかしい、とか、キ○ガイさんだぜ、とか好きに感じてくれていいよ!  考えるな、感じるんだ!  ああああああああああああ、僕だって自分で何を書いているのか意味がわからない!  しかしあいつは、その舌足らずな声で、確かにそう言ったのだ――(僕が幻覚を見ている、というオチでない限りは)。 「ニートにょアナタでも世界平和に貢献できるんですにょー☆」
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