四号室

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「よく分からないけど、君ってポーカーフェイスなんだね」 「は?」 「おやすみ」 そして時田は柳瀬に背を向けて目を閉じたが、時田はある事を思い出して柳瀬に向いた。 「あのさ」 「何だ」 「あの二段ベッドは何?」 時田が言っているのは、別室にある誰も使用していない数々の二段ベッドの事だった。 柳瀬は閉められたドアの向こうに目をやり、軽い溜息をついた。 「何で溜息」 「改めてお前が記憶喪失だと思わされる」 「別に僕だってなりたくて記憶喪失になったわけじゃないし」 時田は頬を膨らませ、不貞腐れながら掛け布団を被った。 「…悪かった。あの二段ベッドは、第四班の生徒達が使っているものだ」 「班?」 時田は掛け布団から顔を覗かせ、次に来る柳瀬の言葉を待った。 「この学園は、日本国を護る国家の特殊部隊へ送る人材を養成している所で、特殊部隊へ行ける候補生を“班”と呼ぶ。ちなみに、その中でも“班長”の位になった者が卒業時にそのまま国家の特殊部隊へ移動するシステムだ」 「それが君?」 「そしてお前もだ」 「僕?あ、成る程。この別室は班長の部屋なのか」 「その通り」 「じゃあ日本国を護るって、何から護るの?」 柳瀬は無邪気に質問を投げ掛ける時田の目を逸らし、立て掛けてある己の刀に目を向けた。 「妖鬼」 「よう…き?」 「ある“ウィルス”に感染した人の容貌が鬼の様に変わり果てた姿。それが日本国を脅かす存在で、特殊部隊がそれを退治している。今は二十年前の戦争で大分数が減ったが、やはりウィルスはまだ存在していて、それを完全に無くすまで特殊部隊やこの学園が対処している」 「え、それって…ーー」 (まるでバイ○ハザー○とか、ゲームみたいな世界…) 確かに前の記憶も曖昧で全部を思い出せないけど、二十年前に戦争があったとか、妖鬼がいるとか、僕の知ってる日本にはそんなものなんてなかった。 じゃあ…ここは……何処なの? そもそも僕は、本当にここで暮らして訓練して班長になったのか? っていうか…ーー 「何で僕達しかいないの?」 柳瀬は沈黙した。 時田は今は聞いてはいけない事なのかと思い、「やっぱ何でもない」と言って掛け布団を被った。 時田の寝息を確認した柳瀬は、手元の小さな灯りを消して本をしまった。 (記憶喪失…か。何と残酷な手段だ) だが逃がさない。お前が記憶喪失でも。
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