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「時に木下様、千代殿のご婚約、誠に有難うございます。」
「ははは!あの跳ねっ返り娘も遂に嫁入りで御座る!いやー!貰うてくれる殿方なぞおらぬやも知らぬと思うてましたが!」
秀吉殿はニコニコしていた。
「何を申されよう。奥方によく似ておいでで。藤堂の奥向きは安泰でございましょう?」
「ほほほほ!我が妻に似ているなればこそ!いやー!良き婿殿です!」
ドヤ顔をしている秀吉殿はよっぽど嬉しいのだろう。
「藤吉郎殿、与右衛門は幼い頃に父を亡くしております。どうかあの子を"父"として導いてやって下さいね。」
「小谷の方様、与右衛門は立派な若武者に御座る。某の導きなぞ…。」
「確かに与右衛門は歳の割にはしっかりしてます。ですが、まだ若い。武家の男(おのこ)は父から学ぶべき事柄がたくさんあります。
武功立てる事だけが武士の誉でないこと、そのような事、あの子に教えてやって欲しいのです。人の上に立つなら、少しでも情を掛けるように。厳しさだけでは付いてくる家臣も付いてきませんから。」
穏やかな顔をするお市の方に反して、秀吉殿は少し困った顔をしている。
「それなれば…某も10にならない頃に父を亡くしております…。某がいまここにいるのは母や姉、継父や我が木下家が落ちぶれてもずっと付いてきてくれた家臣たちのお陰で御座る…。某が与右衛門を導くなぞ…。小谷の方様は某を過信し過ぎで御座る。」
「そうですか?ですが……私は藤吉郎殿なればこそと思うておりますよ。」
「小谷の方様の申される通りですよ、藤吉郎殿。」
「松姫様?」
「治兵衛は勿論、子飼いの虎殿や市殿(後の加藤清正と福島正則)を見ていれば分かります。」
ニコニコと笑う松姫に、更に困った顔をする秀吉殿を見て、鍋之助が心配そうな顔をして見上げる。
「アレらはまだまだです、某や妻が見ていないと何をしでかすか分かりませんでな!」
いつものように盛大に笑う秀吉殿を見て、お市の方と松姫は何処か安堵したような笑みを浮かべた。
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