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梅雨開けと同時に県下を襲った熱波は、朝の8時前後であっても容赦なく肌を灼く。
昨日と一昨日に断続的に降ったゲリラ豪雨が残した水たまりが、空気を冷やすどころか湯気を上げて熱気に加勢しているとしか思えない。
腕に汗の滴が湧き始める。
七月十六日。
この街は七月盆、つまり新盆で営む家が多い。いつもに比べてサラリーマンも少ないく、高校生は夏休みに入るかどうかの微妙な時期。部活だけの登校と思しき制服姿が、色気のかけらもなく、タオルを引っ掛けてずるずると歩いていたり、今時にしては長めのスカートをばたつかせたりしている。
アナウンスが準急電車の到着を告げ、無人の自動改札が次々と客を吐き出す。
この十分後に、普通電車が来る。
それが手紙に指定された電車だ。
(でも、相手は薫だ)
中学卒業と同時に遠方へ引っ越していった、幼馴染の双子の姉妹。双子のくせに髪型から私服のセンス、内緒だが下着の好みまで違う二人は、性格すら対称的だった。
姉の薫(かおる)は妹の哉(かなえ)と違い、負けん気が強くて、生徒会長まで務めた強者だ。しかも天邪鬼で、待ち合わせは必ず先に来て、待ちくたびれたという表情で賠償を要求する。
きっと今日も指定より一本早い電車で来て、三年前までと同じように自分を責めて楽しむはずだ。
改札の向こうからは死角の、自動券売機の横にもたれかかり、軽く汗を拭き、何食わぬフリを装う。
どう反応してやろうか。
曲げた肘に溜まる汗を見ながら奏二は考える。
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