安田 翔嘉

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「はぁ…今日も熱いな…」 緑も生い茂り夏も盛り。大学の講義を終えたあたしはバス停まで歩く。 しかしこのバス停までの道のりが長いのだ。 額の汗を拭いながら、坂道をのぼった。 「あともうちょっとっ!」 「…はぁ!やっとてっぺん!」 あたしはこの坂のてっぺんから見る景色が好き。東京の景色が一望できるから。 フェンスに手をかけ、小さなため息をついたあたしはびっくりしてその口がふさがらなかった。 ーー人が倒れてる… 少し高めのフェンスの向こうにはちょっとした芝生のスペースがある。 そこに人が倒れているのだ。 翔嘉は急いでフェンスをよじ登り、倒れている人に声をかけた。 「だ、大丈夫ですか…!」 倒れていた男性は少し顔をしかめて、目を覚ました。 「…ん?誰…?」 「あ…えっと…その、そこのフェンスからあなたが倒れているのが見えて…」 男性はフッと優しく笑い、ゆっくりと体を起こした。 ーーーかっこいい…というより綺麗な顔… あたしが男性の整った鼻梁に見とれていると 「俺の顔、そんなに珍しいですか…?」 彼は不思議そうに首を傾げ、刹那また優しく笑った。 「い、いえそんなんじゃなくて」 あわててあたしは首を振る。 「え、あー、それより、大丈夫ですか??」 あたしがそう聞くと彼がクッと吹き出した。 あたしは訳も分からずキョトンとしていた。 「俺は大丈夫ですよ。ちょっと一休みしてただけです」 「あぁ…よかった」 「もし死体だったらどうしよう、とか思ってたんです」 そこで彼は笑いが抑えきれなくなったのかお腹を押さえて笑い出した。 ひとしきり笑い終えた彼は涙を拭いながらムッとしているあたしを見た。 「あ…すいません、あまりにも面白かったので…」 「いえ…大丈夫です」 彼はあたしがプイッとそっぽを向いてしまったことに気がついて話題を変える。 「あなた、よくここの坂で見かけるんですが…この辺りの方ですか?」 「いえ…この辺に住んでるわけじゃないんです。あたしそこのW大に通ってて」 「そうだったんですか」 そう言って優しく微笑む彼の顔はとても綺麗だった。
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