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栗色の髪は毛先にすこしパーマがかかっていて、大きな瞳は吸い込まれそうなくらい澄んだ黒。もしかしたらどこかのモデルの人かもしれない。
「俺…成瀬っていいます。新宿の会社で働いてます」
「成瀬さん…、いつもここで休憩してるんですか?」
ここから新宿だと軽く20分はかかる。
「はい。ここ、よく小さいころよく母と来ていたんです。ずっと会社にいると息が詰まってしまって…」
「そうなんですか…、あたしもこの場所、大好きなんです。坂を頑張って登りきった人しか見ることのできない、とてもいい場所です」
そういったあたしを見て成瀬さんはまた笑う
「ごめんなさい、俺は車できてるから…」
そこで成瀬さんと目があった。なんだかおかしくって、しばらく2人で笑っていた。笑い疲れるとふと成瀬さんが言った。
「そういえば…名前、なんていうんですか?」
「あっあたしは、翔嘉。安田翔嘉です。名前に“かける”って字が入ってて、小さい頃は男みたいってからかわれてたんですけど、今はとても気に入ってます」
「翔嘉さんって言うんだ…いい名前ですね」
「あの、成瀬さんは下の名前、なんていうんですか?」
「司。司です。すべてを司るって意味で司です」
「へぇ!かっこいいですね」
だんだんと日が暮れ、ヒグラシがなく。
「わぁ、綺麗」
翔嘉は夕日を見て、目を細める。
「綺麗ですね…もうこんな時間か。すいません、俺のせいで遅くなってしまって。送ります。家、教えてください」
ーーえ、今なんて…家に送る?
「い、いえ、そんなの悪いです!わざわざそんな…」
そこで成瀬さんは困ったように笑ってみせた。
「やっぱり、初対面の男の車なんて乗りたくないですか」
「い、いえそんなことは…」
「じゃあ乗っていってください」
優しくわらった彼をみて、あたしはこの人なら大丈夫だ。と思った。
「じゃあ…お言葉に甘えて」
ー車で約10分間。成瀬と翔嘉は他愛も無い話をしながらすごした。
「あ、ここ左です。」
やがて車は翔嘉の家の前に止まり、成瀬がドアを開けた。
「ありがとうございました。わざわざ家まで送っていただいて」
「いえ…元々俺のせいで遅くなってしまったんですから。じゃあ、おやすみなさい」
「あ、あの…」
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