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ーーなんだったんだろうか。俺は何を期待して彼女の番号を聞いたんだろう。
しかもあの言い方では俺がまるで彼女に好意を寄せているようにも聞こえたのではないか…
でも、ひとつだけ。久しぶりに俺以外の人と喋って胸の高鳴りを覚えた。今彼女のことを考えているだけでもこれだけドキドキしているのだ。
ー少し茶色く染めた長い髪、絵に描いたようなパッチリとした目。全体的に見ると可愛いわけではないが、なぜか俺は彼女の魅力を感じた。
それに…あの天然なところ。俺が死体だったと思ったなんて…
そこまで思い出してクッと吹き出す。
ー可愛いなぁ
少しの間夢心地だった司は、会社に近づいてきたのに気づき背筋を伸ばす。
ーあれもまぁ、ひとときの夢だったと思えばいいんだ。
司は車を会社の横に付け、ドアをあける。
「社長、おかえりなさいませ」
秘書の田村が出迎える。
「あ、田村わりぃんだけど車回しといてくんない?」
「はい。かしこまりました」
田村はここで断る秘書なんていないでしょう、と顔に表しながら車のキーを預かっていった。
「お疲れ様です」
毎度のこと、受付嬢が俺を出迎える。
でも俺はこの社長!みたいな扱われ方が嫌いだ。
俺だって人間だ。父が大元の社長で俺がその子会社の社長をやっているってだけ。いわゆるタナボタ。
ほんっと迷惑だよ。
「はぁー」
俺は椅子に座り、大きくため息をつく。
「どうしたんですか、司。司がため息なんて珍しい」
「いや、今日はちょっといろいろあって…」
「その様子だと外回り、サボってたんでしょう」
「ちっ、なんでわかるんだよ」
「長年の付き合いじゃないですか」
そう、田村と俺は幼なじみだった。俺が父に会社をもらったとき、俺がこの会社の秘書に田村をよんだ。
こいつ、素人のくせに様になってんだ。そして、ひとを見抜く目が人一倍いい。
だから嘘はつけない。
「今日さ、ちょっといつもの場所で休憩してたら面白い女にあったんだ。俺のこと、死体だと思ったんだって」
笑いを噛み殺しながらいった司に田村が返す。
「死体?とんだ間違いをされましたね」
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