夏祭り。送り火にて

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 和室でよくあるタイプの引き戸を左へ滑らせた瞬間、じめじめとした熱気を孕んだ風が俺の頬を舐めた。俺は意図せず、顔をしかめる。さすがお盆。今年も例年に漏れず――今までを上回ってしまうのではないかといった勢いで蒸し暑い。シャツの首回りを掴んで、バサバサと前後運動。少しだけ、マシになった気がしないでもない。  ご近所が騒がしく外へ繰り出している中、カランコロンと一際耳を惹きつける。下駄の音だ。 「お待たせ!」  頭一つ分小さいポジションからかかる声。俺は振り向いて、視線の角度を数度下へ。そこには予想通り、いとこの姉貴。うなじを隠すくらいの長さに伸ばしていたショートカットヘアーを何とか頑張ってアップにまとめ上げたらしく、いつもは見えない後ろ首が露出している。淡い桃色の浴衣にはほんのりと朝顔が咲き、佇まいもいくらか雅やかだ――ワクワクと高揚を隠せていないその丸い目を除いて。 「いんや。そこまで」  俺はさらっと答え、左手を差し出す。 「ほれ、さっさと行くぞ」 「うん!」  姉貴は特に異論を唱えるでもなく、俺の左手をぎゅっと握る。  今日は、母さんがあの世に戻る日だ。
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