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幸いにも、季節は夏。夜でも気温は二十五度あり、川に飛び込んでも我慢出来るほどの水温だ。男は辺りに人がいないのを確認し、パンツ一丁で川に飛び込んだ。
平泳ぎで対岸を目指す。川の流れは割と穏やかなので、比較的簡単に泳ぐことが出来る。特に綺麗な川とは言えないので、水が口に入る度に、なんとも言えない嫌な味が口の中に広がっていく。
しかし、男はそんな事を気にしていなかった。今、男は彼女の事にしか意識が向いていない。いや、川に飛び込んだ瞬間から、それが思考を支配している。
(愛している愛している愛している......彼女を愛している)
そう、泳ぎながら脳内で“愛している”とリピートする。対岸まで泳ぎきり、河川敷に上がったら、それを口で狂ったように唱え続ける。
「愛している愛している愛している......」
そのまま土手を上がり、男は歩みを進める。行き先は、自分を捨てた彼女の家。
「愛している愛している愛している殺したい殺したい殺したい......」
いつの間にか、唱える言葉が変わっていた。全身ずぶ濡れになり、パンツ一丁で歩くその姿は、不気味以外の何者でもない。
それでも、奇人と化した男は止まらない。やがて、彼女の家にたどり着く。
「あははぁ......愛している......殺したい......」
翌日、全裸になった若い女性の絞殺死体が発見された。
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