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「見たらわかるじゃないか。新しい実験だよ。『彼ら』は新たな自己の獲得のために躍起になっているのさ」
青年は細部を見ようと、横長に鋭い目を一層細くした。映像の中の物体は、何かをめくっては戻し、再びめくっては戻しを繰り返しているようだった。
「これは……、本か?」
「そ……。でも、本は本だけど、あれは絵本だ」
「絵本?」
「うん。シンプルかつ合理的に、『彼ら』に自身を見つけてもらうためには、今思う中では一番良い方法かなあ、と思ったんだ。ほら、現に彼らの体を見てごらんよ。さっきからチラチラと『色変わり』を見せている」
青年は男の横顔から映像に目を戻し、今度はより一層注意深く映像を見てみた。すると男の言う通り、物体は時折万華鏡のように色を瞬間毎に変え、しばらく同じ色になったかと思えばすぐに真反対の色へと変わる、常にそんな調子だった。
ただ全体の動きに共通していたのは、すべての色が薄く淡いことだ。
青年はその色の変化を少しの間眺めていたが、ふと何かに気付いたように口を開いた。
「この実験では、彼らはいったい何になる?最後にはどうなるんだ?」
そう言うと、男はいやらしい笑みを浮かべながら初めて青年の顔を見た。
二人の目が合った。
少し間を開けて、男は口を開く。
「仮定でしかないんだけど、良くて八割かな。悪くて十割」
男は当たり前の顔でそう言ったが、青年にはその意味が理解できなかった。少し怪訝な顔で「十割?」と問う。
そんな青年を余所に男は目線を映像に移した。
「生存する可能性のことを言ってるんだ」
「よっと」と一言呟いて、男は移動式チェアを勢い良く降りた。その勢いのまま奥へと歩いていく。チェアは多少荒い音を立てながら後方に流れていったが、やがて止まった。
男は一つの棚の前に立っていた。フンフンと鼻息を上げながら何かを探している。棚は天井に密着しており、その右側にはスライド式の脚立が立てかけてある。
男はやがて棚の一番下の方で視線を止め、前のめりの姿勢になったかと思うと、戻った時には一冊の本を手に持っていた。
男は満足げな笑みを浮かべ、「これだよ」と言った。
男は本のページをめくりながらゆっくりと青年の方へと歩み寄り、そしてあるページで指を挟み、快活な笑顔と共に青年に手渡した。
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