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 白の衣を纏った少女は、眼下の自身の体を見た。殆ど全てが赤で満たされていた。少女は自分の体が赤色で塗り替えられてしまったような、恐怖にも似た奇妙な錯覚を覚えた。か細い手が震えていた。  少女は震えながら右の手を顔の高さまで上げた。赤しかなかった。  左手も上げてみる。これも、赤だった。 「どうして……」  そう呟いた途端、少女は狂ったように叫び声を上げた。  目から零れ落ちる水滴は、淡く美しいピンク色を宿していた。 少女は美しい涙を死んだような静寂の中、とめどなく流し続けた。  むせび泣き、発狂のような叫びが少しずつ収まり始めた頃、突如無音の空間に他からの音がした。  何かが微かにこすれ合ったような音。一瞬で限りなく小さな音だったが、少女の涙を止め顔を上げさせるには十分であった。  少女から見て奥の方に、黒さを持った何かが立っていた。  男だった。黒のマントのような衣服をなびかせて、不敵な笑みを浮かべている。  少女は咄嗟に両手を胸に寄せ、身構えた。  男は笑んだまま、床に広がる赤の池など意に介さぬ様子で少女の方へと歩みだした。  男は少女の抵抗の眼差しを真正面に受け止めながら、言った。 「さて、君はどんな色を付けたのかな?この血の海で生き残った、一割の命の色。見せてほしいな」  楽しみだなあ、と呟き、男は小刻みに震える少女の前に立った。そしてその場に淡々とした動きでしゃがみこんだ。  男と少女の目線がほぼ同じになった。  男はふと表情を変えた。笑みを消し、無表情の中に冷徹さを備えた眼差しを足元の何かに向ける。少女はそれを見て後ずさりし、ますます固く身構えた。  男の視線の先には、赤い物体があった。  そこらここらに転がっている、名も無き赤の何かの塊。  次に男はうざったそうに口をへの字に曲げた。そして、おもむろに「それ」をつかみ取った。  「それ」は男の右手に高く持ち上げられ、宙ぶらりんの状態を作った。そして、軽々と放り投げられた。  男と少女の後方で、ぐしゃっという何かがつぶれたような音がした。  少女の喉が大きく波打った。額には汗が滲み始めている。
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