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「あの……アゲハさん?」
ミサキは前を歩く銀髪の男、揚羽 奈兎流に話し掛けた。
アゲハとは、今回、彼女の依頼を担当しているロードランナーだ。
グレーのロングコートを着ていて、寡黙な雰囲気から話し掛け辛いがミサキは勇気を振り絞る。
黙って振り返ったアゲハはコートの襟を立てており、鼻から下は見えない。
「あの……きっと、この辺りの筈………」
「………そうか」
街を出てから二日目、アゲハの声を聞いたのはほんの数回だった。
しかし、それでも安心させる何かをこの男は持っていた。
ミサキは辺りを見渡す。
十年前に過ごしていたこの地を訪れたのは、“あの日”に失ったものを取り戻す為の、言わば自分へのケジメだった。
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