ⅩⅡ

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開けた病室の扉に寄りかかって 春菜ちゃんのいなくなった部屋を見ていた私に 廊下の奥から歩いてきた看護師が、 私に声をかけた。 「あら? あなた、昨日もいらしてたわよね? 浅田さんの、知り合いの方でしょ?」 私は寄りかかっていた扉から、 体を起こして頷いた。 怪訝そうに、看護士が 私を見つめる。 「ねぇ…… あなた ここで昨日、何を話したの? 泣き喚いて、病室から出ていったわよね?」 頷いた私を 看護士は、 また、じっと見つめる。 「浅田さん 物静かないい方だったのよ。 私達にも、 いつも気づかい忘れない穏やかな人で」 そう言って 私を睨みつけて 看護士は話しを続けた。 「昨夜、亡くなったのよ」 両手で口を覆った私に 看護士が 冷たい目をして、私を一瞥した。 「患者さんの介護をしてるご家族も、 みんな心が病んでたりするの。 介護に疲れてるし、 神経もすり減ってる。 特に、 春菜さんの場合は 入院が長かったから…… あなたが、何を話したのかは わからないけど お見舞いにくるなら、 細心の心遣いが必要なの」 私をじっと見つめて 看護士は話を続けた。 「あの後、浅田さん かなり取り乱してて…… 春菜さんの 酸素呼吸器のスイッチを切って 屋上から飛び降りたのよ」 そう言って 看護士は、 私に背を向けて歩き出した。
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