ⅩⅢ

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「しっ!誰か来た!」 口に指を当てて 私を見て真剣な顔で 恵子ちゃんが言った。 もう止めて…… どうして? どうして私、 ここにいるの…… ――小さな手のひら 生い茂る木の陰で 私は恵子ちゃんと、 息を潜めて隠れていた。 しゃがみ込んだ 木の茂み―― 葉の隙間から 赤いの鳥居が見える。 恵子ちゃんが、 私の手を強く握りしめた。 「よかった。 春菜ちゃんじゃない。 違ったみたい。 もうすぐ、みんな来るから それまでここにいよう。」 私は、恵子ちゃんを じっと見つめて頷いた。 このあたりで、 年に一度、夏が終わる頃 神社で、大きなお祭りがある。 境内に続く、長い一本道に、 所狭しと屋台が並ぶ。 夕暮れには、まだ早い。 屋台の準備を始めた人達の 忙しない声がする。 あの頃の記憶を 私は、ぼんやりと辿りよせていた。
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