【第三章 異世界生活】

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 そんなことも知らないんですか、と小馬鹿にしたように言う包丁娘のドヤ顔には多少イラっとくるけど、胸を張ったと同時に揺れ動くアレやソレやに免じておとなしく聴こう。 「心器は意思なんてものは持ちません。思考もしませんし、自我もないただのモノです。しかし、持ち主がその声を聞くことはあります」 「えっと、つまりどゆこと?」  首をひねるオレを見て、包丁娘は楽しそうに一本立てた指をくるくる回して説明を続ける。 「いいですか、魔法というものは欲望で世界を歪めて本来ありえない現象を起こすことで、魔法の原動力である魔力はつまるところ欲望に形を与えるためのエネルギーです。そして心器とはその魔力によって形作られたものですから、持ち主の強い欲望の具現になるんですよ」  ふむふむと頷いていると、ずいっと身を乗り出して立ててた指を突き付けられた。  だから近いっての。人見知りのくせにオレに対して距離感が近いのは、姉に近づく悪い虫ってことで遠慮も気遣いもないからかね。 「心器の名前の能力も伝わってこないということは具現化した欲望との繋がりが弱い、自覚が足りないってことです。その場合、自身から心器の形を持って乖離した欲望が声として捉えられることがあるんですよ」 「つまりオレは自己分析、自己理解が足りないってことか」
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