【第三章 異世界生活】

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 犬の大きな口はオレの左腕をつかんで離さないが、その鋭い牙は透明な布でも巻かれたものに噛みついているように腕の数ミリ手前の何もない空間を噛みしめるにとどまっている。  オレが平然としているのが気にくわないのか、犬の方はさらに力強く噛んできているようだけど、障壁はびくともしない。  けど、いくら魔法が優秀といえど限度はあるだろう。今のうちに反撃を……。 「と、クソッ!」  牙こそ届いていないとはいえ片腕を抑えられた状態から反撃しようと自由な右腕を引くと、それを察したようにオレの左腕を開放して距離を取りやがる。  優秀なワン公だな、この野郎。  5メートルほどの距離を開けてオレと犬はにらみ合う。その気になればお互い一息に詰められる距離だ。  でもこっちから出ると、後ろにいる包丁娘が無防備になっちまう。あークソッ、こういう時こそ遠距離攻撃がほしいんだけど、オレの魔法は爆発オチだからなぁ。  いっそ包丁娘を抱えて逃げるって手もあるけど、逃げ切れるか? なんて、ごちゃごちゃと色んな手を模索していると、 「あーもう、じれったいですね!」  包丁娘が一歩前に出る。
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