【第三章 異世界生活】

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「おい、何やってんだ!」 「青の偽典1章1節【流水(ストリーム)】!!」  前へ掲げた包丁娘の腕から一本の水の奔流が放たれ、犬の手前の地面をえぐる。  驚いて飛びすさった後なおもこちらをにらみつけてくる犬と、そのまま手のひらを相手に向けて牽制を続ける包丁娘。  流れる風とそれによって揺れ動く木の葉のざわめきだけが響き渡る膠着状態。  けれどそれもほんの数秒だった。  犬はさっと身をひるがえして去っていき、その姿が森の奥に消えていったのを見送った包丁娘は深い息とともにその手をおろす。 「ふぅ、脅しの一発だけで逃げてくれて助かりました」  胸を撫で下ろし振り返った包丁娘に、 「今使った魔法ってどっか……」  違わなかったか、と訊ねようとしたんだが最後まで言い切ることはできなかった。 「ミつケタ。みツけタ見つケタみツケたッ!!!!!!」  ゾクリとするような、凍てついた歓喜の声にオレの体は完全に縫い止めらたんだ。
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