【第三章 異世界生活】

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「とりあえず、一旦ここから離れるぞ!」  なんでもいいからさっさと逃げ出そう。そう決めて包丁娘の手を取った時だ。  スッと絵筆を走らせたようにオレたちの周りの景色に青い裂け目が走り、風景が描き換わっていく。 「あ、ああ、思い出しました。【翻訳(コミューン)】です」  圧倒的な威圧感に一歩も動くことができないまま、包丁娘が声をしぼりだす。 「なんだ、それ?」 「多くの人が魔法を使えるようにした魔導書魔法と同じく、古の本物の魔法使いたちがこの世界に付け足した設定のひとつです。他の世界から来た人がこの世界の人と意思を交わせるようにするという」 「それで、こっちでも普通に言葉が通じたわけか」 「ええ、言葉に込められた意思を受け取る側の頭の中にある語彙に置き換えるという性質上、より魔法に近い存在の強い意志は言葉にならずとも翻訳されて声として届くことが稀にあるそうです」  蛇に睨まれたカエル。まさにその言葉通りのどうすることもできない状況で、だからこそ淡々とオレたちの声だけが紡がれ続ける。
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