【第三章 異世界生活】

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 期待して包丁娘の動向を見守るけど、包丁娘も氷の蛇も次の動きを見せようとしない。  不安に駆られ目を凝らすと気付く。気付いてしまう。  包丁娘は口の端から血を垂らし、足もふらついている。  そして、倒れ伏してなんとか目を向けている状態にオレが気付けたことに、ほぼ十全の人狼が気付けないはずもない。  オレの目の前まで迫っていた巨体が狙いを変える。 「おい、そっち向かうぞ! 早くしろ!!」  転がったまま声を張り上げるけど、その叫びは届かない。  クソッ。痛い、苦しい、疲れた、怖い。冷たい地面に転がる体に巡るのは、そんなマイナスの感情ばかり。  たしかに力を込めるだけで全身が痛いし、息をするのも苦しいし、拳を握って膝を立てるだけでも怠いし、もう一度あんな化け物に挑みかかるのは恐い。  けど、ここまでやって全部無駄だったなんてことになるのはその何倍も、ムカつく! 「行か、せるかッ」  気合と根性と気力と魔力と、オレに残ったありったけを込めて今まさに飛びかかろうとしていた人狼の膝裏めがけて体当たりをかます。
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