【第三章 異世界生活】

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 後ろからの不意打ちに、人狼はバランスを崩す。こっちは精一杯だってのにその程度かよ。でも、 「すいませんもう大丈夫です」  その程度が明暗を分けることもあるわけで。 「行って!」  包丁娘の呼びかけに従い凍てつく九蛇は空に大地に木々たちに、それぞれが方々に突撃をかます。  え、なんでそんなところに? しかも空に向かったやつは浮かぶ氷塊とかじゃなく、何もないとこを目指してるし。  疑問を覚えるオレの視線の先で氷の蛇は大地をえぐり、木々を貫き、空を穿つ。  まるで絵を背景にでも使っていたかのように、食い破られていく風景。  そしてそこからヒビが広がり、卵の殻を割るみたいに世界が砕け落ちていく。  終わった。理屈は分かんないけど、たぶんこれが包丁娘の言っていたここからの抜けだし方なんだろう。そう安堵した時だった。  オレのそばで地についていた人狼の膝が伸びあがり、弾丸のように包丁娘との距離を詰める。オレも何とか追い縋ろうとするけど、もはやそんな力は残っちゃいない。
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