【第三章 異世界生活】

61/62
前へ
/353ページ
次へ
 森のざわめきをぬけ、暖かな日差しの中をえっちらおっちら街へと向けて歩き続ける。 「今だけじゃなくて、彩色空間で時間を稼いでくださったこともそうです。それになにより、ギルドでのお姉ちゃんは楽しそうでしたから」  背後の包丁娘は見えない。けど、穏やかなその声から表情は分かる気がした。 「そう思うんなら、もう刃物沙汰はやめてくれよ」 「それは約束しかねます」 「おい、感謝の念はどこ行った!」  突然声のトーンが戻ったうえに、きっぱりと言い切りやがった。  やわらかな笑い声がオレの耳を打つ。 「それとこれとは話が別ってやつです。感謝はしてますけど、お姉ちゃんに近づく悪い虫に容赦はしませんよ」 「……シスコンめ」 「否定はしません。わたし、お姉ちゃん大好きですし」  なんたってお姉ちゃんは、と包丁娘の姉自慢が始まる。まあ確かにシエナはかわいいし強いし料理もうまいし、自慢の姉ってのも分からんでもないか。  包丁娘の声をBGMにゆっくりとギルドを目指して歩き続けながら、ふと気付く。
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4604人が本棚に入れています
本棚に追加