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「そう。そしてそれらは章と節が進むたびに強くなっていく。でも無の書だけは違ってね。章と節じゃなくて番号だけだし、その番号も数字が大きくなれば必ずしも強いってわけじゃないんだ。生活の変化に合わせて今でもたまに追加されたりするしね」
「追加って魔法が増えるのか」
「そうだよ。といっても何十年かに一度とかだけどね」
笑うクリスは、そもそもと言ってさらに続ける。
「魔導書を作るっていうのは本そのものを作ることより、『空白(ブランク)』に書き込んだものを定着させて、誰かが一定の手順をふんでから魔導書の種類とページを指定して魔法名を唱えると特定の現象がその場所で発生するように世界の法則に追加するってことが大切なんだ」
分かったような分からんような。まあ細かいことはおいおい覚えりゃいいか。
「『空白(ブランク)』に書き込むってことは、無の書に追加するって行為は本物の魔法ってことなのか?」
「うん。無の書への追加、つまり魔法を作る魔法は今の時代に残ってる数少ない本物の魔法だよ。でも、それもいくつかの国が協力してやっとできるようなものだから個人でどうこうなるものじゃないからね。ボクらみたいな簡易魔法の使い手は魔導書魔法を使うものって意味で魔導師、どんな現象でも自在に起こせる人を魔法使いとか魔女とかって呼ぶわけだけど、今はもう本当の魔法使いを名乗れるような人はほぼいないんだよ」
「ほぼ?」
てことは、少しはいるのか。
「さっき心器は本物の魔法の領域って言ったでしょ。心器は魔導書の枠にとらわれずに個々に色んな能力があるんだけど、そのなかには……」
話の途中でクリスの言葉がやみ、オレも身構え別の方向へ視線を向ける。
なにかが草木をかき分ける音がしたからだ。
そっと少しだけ後ろに下がるクリス。オレのテスト中だもんな。自分は様子を見守るってことなんだろう。
反対にオレが一歩踏み出すのとほぼ同時に、ひとつの小さな影が飛び出してくる。
手足はない。というか特定の形を持たず、ふよふよと流動的に変化し続けるシルエット。向こう側が透けて見えるくらい透明な青い色。
俺たちの前に立ちはだかったのは、まごうことなきスライムだった。
最初の敵といえばこいつなのかやっぱり。
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