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ひとりで納得して頷いてたのが運のつき。その動作を肯定と受けとったのか、少女が飛びついてくる。
「王様っ。お父さんを助けてくださいっ」
「えっと、いやオレは──」
「お姉ちゃんの誕生日プレゼントの材料を取りに来て、気付いたら変なところにいて、お父さんと歩いてたらおっきい魔物がいて、お父さんが逃げろって言って、それで、それで……」
またも目に涙を浮かべ始める少女だったが、ぐっとこらえて頭を下げる。
「王様ってすごく強くて良い人なんですよねッ。お願いします、あの化け物からお父さんを助けてくださいッ」
オレは王様ではない。すごく強い人でもない。悪い人とまでは言わないけど、良い人と言いきるのもはばかられる。でも、
「おう、まかせとけ」
こんなに必死に頼み込まれて、人違いですからよそへどうぞと言えるほどの度胸もないんだよなぁ。
「シロー!?」
クリスが驚いてるけど仕方ない。少女に聞かれないように、声をしぼる。
「オレ前に『空白獣(ブランカー)』に襲われたことがあるんだけど、そんときは【身体強化(リーンフォース)】なしでもわりと逃げていられたんだ。今ならお父さんとやらを連れてももうちょい楽に逃げられるだろ」
人の命がかかってるんだし、多少の危険くらいは目をつむろう。
「ということは、シローって『空白獣(ブランカー)』に襲われて心器に目覚めたんだね。でも一回会ってるからって甘く見ちゃだめだよ!」
少女に聞かれないように声を落としているからか、強く言うためにグッと顔を近づけてくる。
近い、近い。男だって分かっていても目をそらしちまう。クリスってパーソナルスペース狭いタイプだよな、絶対。
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