【第一章 赤の魔女】

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 あれが当たればただでは済まない。でも、これは同時にチャンスだ。  氷の塊がデカすぎて、前が見えにくくなってる。とはいえさすがに左右にかわせば見つかって狙われるだけだろう。でも、前後なら!  正直ビビる。けどやるなら今しかない。  息を止めて腹に力を込める。昔、妹にもらったアドバイスだ。息を止めて余計な心配に思考を割く余裕をなくすんだと。実際の効果は知らんけど、おまじない的な気休めにはなる。  覚悟を決め、前へ前へと走っていた足で今度は後ろへ地面を蹴る。  氷塊を今にも撃ち出さんとしていた青ライオンは懐に入り込んだオレに反応が遅れる。狙うはこの一瞬。 「うりゃぁぁぁあああッ!!」  細かい魔力の制御なんてものはまだよく分からない。でもただ力を込めるだけでなく、自分の周りを覆う何かを感じ、それをありったけ足に集めて飛び上がり、全力で相手のあごを蹴り上げた。  ズドン、と鈍く響く音とともに青ライオンの前足が地を離れ、同時に魔力の制御を失ったせいか氷塊が砕けて散っていく。  うまく入ってくれた。でもまだだ。 「もう一発!」  蹴りつけた反動で地面に素早く着地した俺は、そのまま助走をつけて今度は後ろ脚へとび蹴りを放った。  今のはきれいに決まっただろ。  ベキリと嫌な感覚がして、青ライオンの右後ろ脚があらぬ方向を向く。 「グギャァァァァァァアアアアアアッ!!」  倒れる姿をしり目にさっさと距離を取る。今のやり取りで大分魔力を食ったらしく【魔力障壁(ウォード)】が薄くなってるのを肌で感じるし、我慢してたけど敵からもらった一撃の痛みも全然ひいてない。  さすがに倒すのは無理っぽいし、また氷を打たれる前に逃げるとしますか。
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