【第一章 赤の魔女】

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 なんて考えて背を向けたのが運のつきだった。目を合わせたまま後ろ向きに逃げるのは鉄則なのにな。 「ぐッッッ!!」  あ、なんかこれデジャビュ。  ほんの何分か前と同様にすっ飛んで行く景色を見ながら、頭の片隅ではそんなことを考えていた。  さっきと違うのは吹き飛ばされた方向の木々が鬼ごっこの過程でへし折られていたおかげで、叩き付けられずに済んだってところだ。けれどその分、地面を転がることになる。  やばい。【魔力障壁(ウォード)】が薄れていたせいで、痛いなんてもんじゃねえ。手足は全部動かせるから折れてはいないだろうけど、それはオレだけではなくて、 「……そっちもなんで無傷なんだよ」  ゆっくりと歩み寄ってくる青ライオンはしっかりと四本の脚で地面を踏みしめていた。  右の後ろ脚はたしかに蹴り折ったはずなのに。氷だけでなく回復魔法的なのまで使えんのかよ。  遅い歩みは強者の余裕か。たしかに今のオレはやっとこさ立ち上がれる程度の満身創痍な有様の上、魔力も心もとない。デカい化け物と比べるまでもなく圧倒的に弱者だ。でもだからこそ、 「倒せば経験値がっぽりだよな」  レベルの低い状態で強敵を倒せば一気にレベルが上がるのは世の常。うまくいけばEランクどころかDランクくらいはいけんじゃねえの。  プラス思考でへらへら笑う。笑ってないと折れそうだけど、笑えるならまだいける。  とりあえず折れて転がってる氷の木の残材を投げつけてやろうと、大きめの残骸に視線を向けた瞬間だった。  「今回は当たりかしら?」  鈴を転がすような声が聞こえた。  またもやデジャビュだ。でも今度のはもう少し前のやつ、オレが初めて魔法を見たあの冬の日を思い出す。
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