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敵を焼き滅ぼすと炎も小さな火の粉の一片すら残さずパッと消え失せる。
炎が消えると赤髪、いやシエナとかいったか、が身に着けていた深紅のドレスもその足元から火の粉となって散っていく。
黒の水着姿に戻ったシエナは疲労の色を浮かべながらも、『空白獣(ブランカー)』のいた証として焦げ跡を残す場所に歩み寄り何かを拾い上げる。
「よし、小さいけど手に入った。あともう少し、もう少しで……」
さっきまでのように張り上げられていないその声はこちらまではかすかにしか届かない。最後の方なんて全然聞き取れなかったし。
上級魔法はやっぱすごかったなぁ。オレもいつかあんなのうってみたいけど、属性ないしなぁ。無の魔導書は章分けされてないらしいけど、上級魔法ってあるのかねぇ。
なんてことを思いながら、意識が遠のいていく。
「!! シロー! シロー!」
突然体制を崩したオレにクリスが呼び掛けてくれるけど、うまく返事が返せない。
クリスの声にこちらに振り返ったシエナも駆け寄ってきてくれる。薄れていく視界のなかでも近づけばよく分かる。絶壁とは言わないけど、その、なんだ。まな板の上のせんべいくらいかね。
個人的には後姿の方が、ゲフンゲフン。
やられたダメージをこらえるのに限界が来たのか。はたまた敵が倒されたのを目にして緊張の糸が切れたのか。
断じて【魔力障壁(ウォード)】が薄れてるのも忘れて中途半端にしか距離を取っていなかったせいで、上級魔法からの熱波にやられたなんて情けない理由ではない。
誰ともなく言い訳をしながら、オレの初めてのクエスト……から派生したやっかいごとは幕を閉じたのだった。
他の理由でも情けないのは変わらないというツッコミはなしの方向で。
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