4604人が本棚に入れています
本棚に追加
/353ページ
「下級魔法で一発じゃ、彩色片は期待できそうにないわね」
いまだ理解が追い付いていないオレに、少女がまたも聞きなれない単語を口にしながら近づいてくる。
「で、あんた本当に迷子?」
その問いにオレはうなずいて返すことしかできない。
「ふーん。じゃあその頭の上のものは何?」
「へ? 頭の上?」
言われるままに手をやり、
「なんだこれ?」
オレの手は、何かをつかみ取っていた。オレ、何も頭に載せてなかったはずなんだけど。
「王冠?」
それはもうまごうことなき王冠だった。金色の薄い板でできた円形のそれに、等間隔に透明な石がはまっている。でもこの王冠小さすぎてあんまり威厳ねえぞ。
「それに見覚えは?」
「ねえよ。一般的な男子中学生は王冠になんて縁がないだろ」
「そう。嘘はついてないみたいね、というか彩色片が出なかった以上あんたが横取りを考えてたハンターなら嘘つく必要ないしね」
「またか。さっきからその彩色片って何だ?」
「今は知らなくてもいいわ。【空白獣(ブランカー)を倒したからこの空間ももうすぐ崩れるし、手短に言うわよ。今あんたが知っておくべきことはふたつ」
少女はオレの手におさまる王冠を指さし、
「それは【心器】。魔法使いの証とでも思えばいいわ。あんたは目覚めた、偶然でも奇跡でも運命でも不運でも好きにとらえればいい。そして、」
白く塗りつぶされていく視界のなかで、ミニ丈の浴衣に二丁拳銃という珍妙な格好の少女が残した最後の言葉。
「リリアネス魔法学園。それがあんたが通うことになる学校の名前よ」
中学三年の冬休み、受験を前にして進学先が決まった瞬間だった。受験せずに済んでラッキー、とは思えないよなぁ。
最初のコメントを投稿しよう!