【第二章 銀嶺館】

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 談話室の机に皿を置いて、二人とも黙って肉を口に運ぶ。  話さないというよりは話す余裕がないと言った方が正しい。  味付けはキッチンに置いてあった塩と胡椒を適当にふりかけただけ。オレ自身の料理スキルもそこそこ。肉も少し火を通しすぎたかなと思う。  なのにそれでも手を止められない。  味は、というか食感から何から牛肉のそれ。火を通しすぎたせいか固くなっているけど、その分噛みごたえが出ている。  しっかりと噛みしめるたびに肉の存在感が口いっぱいに広がっていくと同時に、得も言われぬ充実感が湧き上がってくる。  ああ幸せだなぁ。人助けした甲斐があったなぁ。  空腹が最大の調味料という言葉もあるし、二食も抜いてるせいかとも思ったけど、 「………………(ガツガツぱくぱくモグモグ)」  さっきまでの気だるげな姿はどこへやら一言も発さないまますごいスピードで目の前の肉をたいらげていく姿を見るに、それだけってことはなさそうだ。 「……ふぁみよ」 「なんでもねえよ。あと、取る気はないって」  口いっぱいに肉を詰め込んでリスみたいに頬を膨らませたまま、皿を守ろうと手でガードするとか食い意地張りすぎだろ。 「もうちょい残ってるけど焼くか?」 「ッッッッッッホント!?」 「ホントホント。イロさんにもって思ってたけど、あの人帰ってきてねえし」 「じゃあ、お願い!」  目をキラキラさせて皿の上を片付けていく姿は幸せいっぱいで料理した甲斐があるってもんだ。  まあ、ほとんど焼いただけだけどな。
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