【第二章 銀嶺館】

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 ゾクリと嫌な予感が走り、心器である王冠を出現させるとともに右へ飛ぶ。 「無の書3番【魔弾(バレット)】」  さっきまで立っていた場所で、魔力の塊が炸裂した。  優しい笑顔を一ミリたりとも崩さずやってのけるのが、なお怖ええよ。 「次行きますよぉ。無の書6番【縛鎖(チェイン)】」  オレとアリシアさんの二人だけで使うにはあまりにも広すぎる空間に、歌うように声が響くのに続いてアリシアさんの足元から透明な鎖がいくスジか伸び上がる。  透明と言っても無色透明ではない。わずかに灰色がかっている。  見てわかることはそれくらいだ。瞬時に伸び上がったそれはまるで蛇のようにうねりながら襲い掛かってきて何本あるのかも把握できない。 「うっ、【魔力障壁(ウォード)】!」  とっさのことで無の書1番の部分は省略だ。  書と章節に関しては省略も可能らしい。ただしもちろん威力と精度は落ちるし、使い手の実力によっては発動すらしない。  魔法初心者もいいとこのオレだけど、基礎中の基礎であるこれは省略術式でも発動できたようだ。  まっすぐ突いてくるもの、鞭のようにしなって打ち据えてくるもの、かわし切れずにいくつかくらうけど、痛みが体に響くほどではない。 「ちゃんと防ぎましたねぇ」 「これくらいはできますよ」  ……内心かなりビビったけどな。  魔法初心者のオレは魔力を察知する能力も高くない。  長く発動し続けていれば体を覆う魔力をなんとなく感じ取れるし、その感覚に近いものを拾い上げる形で自分以外の魔力を感じ取れるけど、そうでなければ何も感じない。  今も魔法が発動した実感はないわけで、そりゃあビビるわ。ウォードは基本目に見えないし。  ホントちゃんと発動しててくれてよかった。
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