【第二章 銀嶺館】

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 喜ばしい事実を手に入れてテンションが上がったまま食事を再開すると、さっきまでも十分すぎるほどう旨かったものがさらにおいしく感じる。  やっぱり気分って大事だよな。シエナの腕がいいのも当然あるけど。  オレも元の世界では両親が忙しいときなんかに、妹といっしょに自分たちの食事を用意してたりもしたけど適当だったからな。  ふたりとも焼いて塩振れば大抵うまい、という母の教えを忠実に守っていたわけだ。  いちおう一人暮らしを始めた以上、もうちょい料理も覚えた方がいいかもしれん。  と、そうだ。 「シエナ、オレに料理を教えてくれないか」 「ふぇ?」  オレとイロさんの食いっぷりに満足して自身も口いっぱいに頬張っていたシエナは、唐突な俺の申し出に首をかしげてから、口の中のものをしっかり飲み込んで返す。 「なによ、突然。教わらなくても、あんた料理できるじゃない」  いや、朝は肉焼いただけだっただろ。あれくらいでできると思われても困る。まあ、まったくできないわけでもないけど。 「オレ、まだこっちにきたばっかでこの世界の料理とか知らないんだよ。この料理も見たことないの多いし」  さっきイロさんに頼まれたシエナに料理を作ってもらうってやつ。これならオレも料理を覚えられて、シエナのやつもちゃんとした飯を食うしで一石二鳥だろ。 「ふーん、そういうこと。ま、それくらいならいいわよ。ただし、あたしの手が空いてる時だけね」 「それで十分。ホントありがとな!」  でもこれで明日からは料理に魔法に覚えることが多くなりそうだ。まあ、せっかく異世界生活なんて珍しい体験ができてるんだし、少しくらいは頑張るか。
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