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少し昔のことを思い出していたナターシャの耳に、小さく鐘の音が聴こえる。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13。
特別の日にだけ鳴るその音は、13回の音を響かせた。
「ほんっと、嫌になる」
ナターシャは睨み付けるように鐘楼がある丘を見た。
「そんなに準成人式が嫌か?」
「……クルト」
「準成人式が嫌なのは分からなくもないがな。俺たち火竜族にも同様の儀式があるからな」
クルトはナターシャの横に立って、鐘楼を見つめた。
「クルトの時はその準成人式はどうだったの?」
「そうだな。俺以外に三人儀式に参加していてな。両性体は俺だけだった。今は男だが、その時は結構線が細くてね。夜通しかけて儀式があった」
「ちょっと待って。準成人式は夜だけだよね。大人たちは結構朝まで飲んだりしてるけど。夜通しって……」
「両性体は特別だからな。……戻るぞ。ご両親やジルが中々戻ってこないことを心配していた」
無理やり話を切り上げて歩き出すクルトの背をナターシャは見つめた。
どうにも腑に落ちないし、肝心なことが聞けていない。
「ちょっと!」
「明日になれば分かるさ」
ナターシャの言いたいとこを読み取ったのかクルトはそれ以上は言おうとせず、ナターシャもこれ以上聞いても答えは返ってこないだろうとため息を吐いて歩き出した。
「ぼくは男を選ぶよ。男になりたい。男ならきっと守れる」
「おまえは守りたいものがあるんだな」
「あんたはないわけ?」
「さあ、どうかな」
クルトの返しに「なにそれ」とナターシャは笑った。二人が笑いながら話していると後ろからナターシャを呼ぶ声がした。
ナターシャは振り返った。
「アレイラ」
ナターシャやジルと同年代の少女が立っている。肩ぐらいの長さに切り揃えられている水色の髪に同色の瞳。右耳には三連になっているサファイアのピアスを付けている。やはり竜族なだけあって整った顔をしていて、とても可愛らしい。
しかし七分丈の袖から覗く腕には痛々しい火傷の跡があり、それがどこかアンバランスさを醸し出している。
「ナターシャ、久しぶり。元気にしていた? 里を出てから戻ってこないから、心配してたのよ? 連絡もくれないし」
少しむくれて言う彼女に、ナターシャは慌てたように言う。
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