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 開けた場所で数人の男女が音楽に合わせて舞っている。  ナターシャは用意された席に座って退屈そうに、欠伸を噛み殺しながらその舞を見ていた。  そんなナターシャの隣では、楽しそうに少年と少女が話をしている。話を盗み聞きしていると、舞を舞っている男の一人がどうやら少女の想い人のようだ。  音が鳴り止み、舞を舞っていた人たちは一つお辞儀をして去っていく。一番上の上座に座っていた長老の一人が立つと、周りもそれに伴うように立ち上がる。  ナターシャと、同じように本日の主役である男女が長老の前に歩み寄り、その前で膝を折る。長老は隣に控えていた側仕えの男が持っている箱の中から、造花の花冠を取り出すと三人の頭の上にそれぞれのせた。 「――ここに今宵三人の準成人者が誕生した。三人とも成人の日まで息災であれ。そして、この先のそなたたちの未来が明るくあらんことを。さあ、あの水晶の前へ」  水晶の前に並んで立つと、一人ずつその前で祈りを捧げた。  少女が祈りを終えると、少年が祈りを捧げ、少年が終えるとナターシャが水晶の前に立った。 「さあ、ナターシャ。祈るのだ」  ナターシャは無言で長老を見返し、一歩前に出た。水晶に歪んで映る自分の顔を見つめ、膝を折って祈りを捧げた。  祈りを終えたナターシャは目を開くと、睨み付けるように長老を睨む。その様子に意に介さないというように手を鳴らすと音楽が響き始めた。 「みな、楽しめ!」  男たちの楽しそうな笑い声、女たちの囁き声を背にナターシャは足早にその場から去った。  喧騒(けんそう)から離れた場所で木に凭れ掛かるようにしてナターシャは座った。 「……何を見せられた?」  膝に顔を埋めていたナターシャは、聞こえた声に顔を上げた。 「クルト……」 「おまえは、なにを、見せられた?」 「知っているのか、あれが何か!」 「見せられるものは全員違う。俺も準成人式の日に見せられた。過去の自分を、な。おまえは、何を見せられた?」 「分からない。あれがなにか、ぼくには分からない。だってぼくは、ぼくは……」  動揺しているのかあまり口が動いていなかった。地面を見つめてずっと同じ言葉を繰り返している。  ナターシャの肩に手を置き、クルトは覗き込むようにして言葉を紡ぐ。 「何を、見た?」  震える唇でナターシャが言ったことに、クルトは目を見開きそして笑った。 「だったら、俺がその役目を担ってやる」
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