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「ナターシャ? どうかした?」
「これにジルのサインが欲しいんだけど」
ナターシャがジルに見せたのは、禁書閲覧許可証だった。
「禁書って……またなんで、ってナターシャ……」
「分かるだろ? ぼくは諦めてない。早くサイン」
ジルを急かすように言うナターシャに、ジルはため息を吐いて部屋に入るように促す。
部屋に入ったナターシャに入れたばかりのコーヒーを出し、禁書閲覧許可証に目を通した。
「ナターシャ、俺は許可できない。そんな理由で禁書をなんて」
「そんな理由? ぼくには死活問題なんだけど。まあ、ジルには分からないだろうけどね」
「確かに分からない。俺は生まれた時から男だから。だけど、ナターシャ。いくら探したって見つかるはずがない」
「なんで言い切れるんだよ。まず見てみないと分からない」
「今まで! 今まで何人の両性体がそうやって色々探して見つからなかったと思ってるんだ!」
あまり声を荒げたりしないジルが珍しく声を荒げる姿を見て、ナターシャは目を見開いた。
ナターシャの手を引っ張って、鏡の前に連れてきたジルは、まっすぐ鏡の中に映るナターシャを見つめた。
「ナターシャ、見なよ。今の自分の姿を。ねえ、今鏡に映る自分の姿はどう?」
一瞬鏡に映る姿が歪んだかと思うと、先程とわずかに違う姿が映っている。
先程よりパッチリした目に、唇はふっくらとしている。さっきまでなかった丸みを帯びた体形に、手の指は白く細くなっている。
ナターシャはこぶしを握って思いっきり鏡に叩きつけた。割れた鏡で切ったのかポタポタと真っ赤な血が落ちていく。
「こんなのぼくじゃない」
ゆっくり手のひらを見つめると、先程の白くて細い指はなく、割れた鏡に映る姿はいつもの自分だった。
「少しずつそうやって書き換えられているんだ。両性体という自分から、女としての自分に」
ジルは治癒術は得意ではないから、怪我をしているナターシャの手に簡単に手当てをしていく。
「だから、早く見つけたいんだよ。だからサインが欲しいんだ」
「諦めろ。俺はサインはしない。それに、ナターシャ。きみは近いうちに女子側のフロアに部屋が移されることが決まったよ」
「はあ? なんだよそれ!」
「ここに戻ってきたときに学校長に準成人式のことを伝えているし、きみは女になるから。だから、男子側には置けないというのが考えだよ」
「ぼくの意思は?」
「ごめんね、ナターシャ」
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