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 ラディが見つめる絵にはナターシャとジルが描かれている。  ナターシャが何か言っていてそれをジルが笑って受け止めているような絵だった。 「ジルが違うのは置いといて。ねえ、お願いしたいことがあんだけど」  にっこり笑ってラディに言うと、ラディは首を傾げた。 「お願い、したいこと?」 「そう。これなんだけど」  ラディに見せたのは先程ジルにサインを断られた禁書閲覧許可証だった。 「それがどうかしたの……?」 「マット・スクーズ、字を真似るのもうまかったよな。ジルの字を真似てここにサインしてくれない?」 「……ナターシャ、それはいけないこと、だよ……」 「そんなの知ってる。校則違反だもんな。でも、ぼくにはこの許可証がすぐにでも必要なんだ」 「エンヴィ先輩に……」 「ジルにもらえてたら言ってない。おまえには迷惑にならないようにする。だからお願い」  ナターシャは両手を合わせてラディに頼み込む。  ラディは困ったように視線を色々なところに向けていた。内心の動揺を表すように尻尾は小刻みに揺れている。 「……分かった。ナターシャのお願い、聞く……」 「本当に? ありがとう、マット・スクーズ」 「うん。……ぼく、ナターシャ好きだから……」  照れ笑いを浮かべるラディの頭をナターシャは撫でた。 「そういう可愛さがおまえの従兄弟のアレンにもあればいいのにな」  ラディは気持ちよさそうに目を細めてナターシャに頭を撫でられている。ナターシャも満足するまで撫でると、禁書閲覧許可証にジルの字を似せてサインを書いてもらった。  手元にあるジルが普段使うサインの字とラディが書いた字を見比べてもほとんど違いが分からなかった。 「これなら大丈夫そうだ。今度なんかお礼するな」 「……だったらモデル、になってほしい……」 「モデル?」 「今度、コンクールある……。ぼく、絵を、出したい……。ナターシャ描きたい……。だめ……?」 「分かった。ぼくでよければモデルやるよ。おまえにはこれで大きな借りもあるしね」 「じゃ、じゃあ詳細は……メールで送る……!!」  ラディは嬉しそうに笑って部屋を出ていく。尻尾が激しく左右に動く様子を見て、ナターシャは噴出した。  一しきり笑った後、ナターシャは禁書閲覧許可証を握って部屋を出た。
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